経営改善に関するお役立ち情報

#2経営分析とは 見るべき指標と計算方法を解説

会社の財務状況を把握しておくことは、安定した経営を行ううえで重要です。
経営分析で代表的な5つの指標である「収益性分析」「安全性分析」「生産性分析」「成長性分析」「効率性分析」を用いることで、会社の財政状況を包括的に知ることができ、自社の課題点や解決方法の糸口の発見につながります。
今回はそれぞれの分析方法の特徴と、指標の活用方法をご紹介します。

  1. 経営分析を行うために用意すべき財務諸表

    経営分析では、財務諸表を使用して分析します。スムーズに行うために、以下の財務諸表を準備しましょう。

    • ① 貸借対照表…貸借対照表は、会社の資金の使い道を示したものです。会社の資産や負債の金額、比率などが確認できるため、ある時期における会社の財務状況を確認できます。
    • ② 損益計算書…損益計算書は、会社の収入や支出を示したものです。収入に対し、どの程度の支出があるか、支出の各項目の割合などが確認できます。また固定費・変動費も確認できるので、損益分岐点の計算にも使用できます。
    • ③ キャッシュフロー計算書…キャッシュフロー計算書は、会社の資金の流れを示したもので、資金繰りの管理ができます。キャッシュフロー計算書は、上場企業のみ作成義務があり、個人事業主や非上場企業には作成義務はありません。しかし、資金不足に陥らず、健全な経営を目指すためにもキャッシュフローの把握はしておきましょう。
  2. 経営分析で見るべき指標

    経営分析を行うことで、自社の財政状況を把握でき、問題があった場合に早い段階で手立てを打つことができます。経営分析を行うために着目するべき指標は、以下の5つが挙げられます。

    • 収益性分析…企業の収益を分析し、企業がどの程度利益を上げているかを確認する
    • 安全性分析…会社の資本構成を分析し、資金的な安定性や余裕度を確認する
    • 生産性分析…投入したリソースに対する生産量等を分析し、人や設備の生産性を確認する
    • 成長性分析…企業の売上高、総資産等の変化を分析し、一定期間の成長率を確認する
    • 効率性分析…同じ売上高を上げるために導入された資金や労働を分析し、資本の効率性を確認する

    以上の分析を用いて、自社の経営において、どの部分を改善していくべきかを確認していきましょう。

    1. 収益性を分析して利益を生み出す力を確認する

      収益性分析とは、会社がどの程度収益を上げているのかを分析する指標で、会社の稼ぐ力を確認することができます。企業の収益性は、ステークホルダーや金融機関なども注目する重要な指標のため、収益性分析を用いて、適切に利益を上げることができているかを確認していきましょう。
      収益性を分析するものとして、売上高経常利益率や売上高総利益率、売上高営業利益率、ROA (総資産利益率)などがあります。

      ①売上高経常利益率(%)=売上計上利益÷売上高×100
      売上高経常利益率は、売上高に対して原価や一般管理費を引いた経常利益の割合を示すもので、会社の総合的な収益力を示しています。
      政府統計の総合窓口の令和3年度中小企業実態基本調査をもとに算出すると、業種別の売上高経常利益率は以下のとおりです。

      業種 業種 業種
      建設業 5.11% 製造業 4.08% 情報通信業 6.02%
      運輸業 1.34% 卸売業 1.94% 小売業 2.69%
      宿泊業 2.15% 生活関連サービス業 2.08% サービス業 5.54%

      業種によってかかる原価や人件費にばらつきがあるので、経常利益率にも大きな差がでます。自社の業種での適切な割合を確認しましょう。経常利益率が低迷している場合は、その原因は大きく、原価にあるのか、または一般管理費にあるのかに分けられます。以下の計算式を活用することで、さらに詳細な分析を行うことができます。

      ②売上高総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100
      売上高総利益は売上総利益を売上高で割った指標で、商品・サービス自体の競争力を示しています。業種によって適正な数値は異なるものの、どの業種であっても、売上高総利益率は20%以上必要です。

      売上高総利益が20%を切っている場合には、商品力の低下や、原価の高騰などの原因が考えられます。商品力の見直しや、無駄な原材料などを使用していないかを確認していきましょう。

      ③売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
      売上高営業利益率は、売上高から原価と一般管理費を差し引いたものを売上高で割ったもので、会社の主な業務から得られた収益を確認できます。

      日本企業の売上高営業利益は、多くの場合は2%から3%の間を推移します。0%でなければ、営業利益が出ていることになるので問題ありません。一方で、0%を割る場合は、利益が無く、赤字であることを意味するので改善が必要になります。

      売上高営業利益が0%の場合は、人件費や水道光熱費等の一般管理費の高騰などの原因が考えられます。一般管理費の項目を確認し、必要以上に欠けている経費がないかを確認していきましょう。

      ④ROA(総資産利益率)=当期純利益÷総資産×100
      ROA(総資産利益率)は、会社のすべての資本を活用して、どの程度稼いだかを示す指標で、会社の資産をどのくらい効率的に利益に還元できているかを分析できます。

      ROAは、5%が企業の平均値です。5%を割る場合は、無駄な労働力がないか、不必要な原材料などがないかを確認し、収益を増やし、ROAを高めることができます。

    2. 安全性を分析して支払い能力を確認する

      安全性分析とは、会社の負債や資本を分析し財務状況を確認することで、資金的な安定性を示す指標です。安全性分析を行うことによって、会社の倒産の危険性などを知ることができます。また、逆に安全性が高すぎることで、資金運用の非効率性につながっているのではないかといった経営の改善点を見つけることもできます。

      安全性分析では、自己資本比率、流動比率、当座比率、固定比率、インスタント・カバレッジ・レシオなどを用いて分析します。

      ①自己資本比率(%)=自己資本÷総資産×100
      自己資本比率は、総資産における自己資本の割合のことです。返済の必要のない自己資金の割合を確認することで、安定性を分析できます。

      業種や業界にもよりますが、一般的には30%以上あれば安定していると言われています。30%を割る場合は、借入金が多く、自己資本比率の割合が低く、安全性が低いと判断されます。そのため、自己資本比率が少ない場合は、追加の借入を抑えて自己資本を増やしていく必要があります。

      ②流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
      流動比率は、短期的に支払う流動負債と短期的に現金になる流動資産で計算したもので、会社の短期的な支払い能力の安全性を分析できるものです。

      流動比率が100%を切ると、支払うべき金額が収入よりも増えることを意味するため、安全性に問題があると言えます。また流動資産は、不良債権といった現金化が困難になる可能性もあるため、通常は、流動性比率は150%以上が望ましいと言えます。

      流動比率を改善するためには、増資や事業で利益を出すことによって、現金預金を増やす方法が挙げられます。

      ③当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
      当座比率は、短期的に支払うべき金額に対して、現金や預金、売掛金などの当座資産がどの程度あるかを計算するもので、会社の短期的な債務の支払能力を分析できます。

      当座比率と似ていますが、流動比率には棚卸資産が含まれているため、当座比率の方が、より厳密に支払い能力の安全性を判断することができます。一般的には、100%以上が理想であると言えます。100%を割る場合は、債権や不要な不動産などを売却し、現金や預金などの当座資産を増やすと良いでしょう。

      ④固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100
      固定比率とは、固定資産がどのくらい自己資本でまかなわれているかを示す指標で、会社の長期的な安全性を分析できます。固定資産とは、土地や建物、特許権などの現金化されない資産のことで、こういった固定資産は、返済の必要のない自己資本でまかなう方が安全性は高いと言えます。

      固定比率は、100%を切ることが理想であると言えます。100%を超える場合は、不要な固定資産を売却する、または株式の発行を行い、自己資本を増加させると良いでしょう。

      ⑤インスタント・カバレッジ・レシオ(%)=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+利子割引料)
      インスタント・カバレッジ・レシオは、会社の年間の営業利益が借入や手形の割引料の何倍かを示すもので、事業規模に対する借入金額が適性か、借入金に対する依存度などを分析できます。

      インスタント・カバレッジ・レシオは、倍率が高いほど金利に対する支払い能力が高く、安全性も高いと言われており、2.0以上が標準、10.0以上を上回ることが理想であると言えます。もし1未満の場合には、収入よりも支払利息が大きいことになるため、倒産の危険性が高くなります。改善するためには収益を増加させる、もしくは負債額を減らしていく必要があります。

    3. 生産性を確認して人や設備の効率を確認する

      生産性分析とは、商品やサービスを生産するために投入した設備や労働、資金がどの程度の成果を生み出したかを分析する指標です。生産性分析を行うことで、投入した設備や労働を効率的に運用できているかどうかを確認できるほか、過去や他社と経営状態の比較ができ、自社の課題の発見・解決につながります。

      生産性分析では、労働生産性や労働分配率を用いて分析していきます。

      ①労働生産性=生産量または付加価値額÷労働者数または労働者数×労働時間
      労働生産性は、労働者1人あたりもしくは1時間あたりに、どの程度、商品やサービスを生み出したのかを分析する指標です。

      生産性の計算式は、物的生産性と付加価値生産性の2つの軸があります。前者は、生産した「モノの重さや数」などをもとに計算し、後者は新しく生み出された「付加価値」をもとに計算します。生産量で計算した場合は、労働者が生産した商品やサービスの「量」を、付加価値額で計算した場合は商品やサービスの「質」を分析できます。

      また、労働者数で計算した場合は「1人当たりの生産性」を、労働者数×労働時間で計算した場合は「1時間当たりの生産性」を分析できます。

      1人当たりの労働生産性の適切な値は、業種や会社の規模、従業員数によって異なります。

      小規模企業における1年間1人当たりの労働生産性(単位:万円)

      業種 労働生産性 業種 労働生産性
      生活関連サービス業 327 卸売業 951
      宿泊業・飲食業 327 建設業 778

      ※中小企業庁 令和元年度(2019年度の中小企業動向より

      上記の労働生産性を参考に、自社の労働生産性と比較してみてください。

      生産性が低い場合は、コストの削減や生産する商品・サービスの生産性を上げることで改善することができます。

      ②労働分配率(%)=人件費÷付加価値額×100
      労働分配率とは、会社が生み出した利益をどのくらい人件費に還元しているかを分析する指標です。労働分配率は、一般的に高ければ従業員にとって良い環境となり、低ければ会社の経営をより安定させることができます。

      業種によって異なりますが、一般的に60%を超えると企業の収益が厳しくなると言われています。労働分配率が高い状態を改善するためには、給与や福利厚生費を抑える必要があります。

    4. 成長性を確認して将来性を確認する

      成長性分析とは、売上高や営業利益、総資産における成長率を分析することです。成長性分析をすると、会社が一定期間にどの程度成長したかを確認できます。成長性分析の対象となるのは、売上高、経常利益、営業利益、総資本、純資本などの項目があり、次のような計算式で算出します。

      〇〇成長率(%)=(当期〇〇-前期〇〇)÷前期〇〇×100

      〇〇の部分には、売上高や経常利益など算出したい分析対象を代入してください。たとえば、売上高成長率は次のような計算式で算出します。

      売上高成長率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100

      成長性に関する指標は、いずれもプラスであることが理想です。マイナスとなった場合は、前年度より売上が落ちていること、経費が余計にかかったことなどが考えられるので、商品やサービスの販売を増やすこと、無駄な経費がないかなどを確認しましょう。

      なお、総資本や純資本における成長率はプラスとなっていることが望ましいですが、総資本においては、借入金も資本に含まれるため、借入が多いことで総資本成長率が伸びている可能性があるため、安全性分析の指標とあわせて確認しましょう。総資本成長率や純資本成長率が減少している場合は、前年度よりも収益を増やすことで改善できます。

    5. 効率性を分析して資金にムダがないかを確認する

      効率性分析とは、一定の売上高を上げるために投入したリソースを、どの程度減らしたか分析することで、効率的に経営できているかを示す指標です。効率性分析を行うことで、効率的に売上や収益を上げられているかを分析できます。

      効率性分析は、総資本回転率や売上債権回転率および回転期間、棚卸資産回転率および回転期間、仕入債務回転率および回転期間を用いて分析していきます。

      ①総資本回転率(%)=売上高÷平均総資本 総資本回転期間=平均総資本÷売上高

      総資本回転率とは、会社の資本を活用して1年間にどのくらい売上を上げたのかを示す指標で、資本をどの程度効率的に活用したかを分析できます。総資本回転率が高いほど、少ない資本で大きな売上を上げられていることになります。

      また、総資本回転期間は、会社の総資本を何日で回収したかを示すもので、短い方が効率的に資本を回収できていることになります。

      総資本回転率、総資本回転期間共に、目安は業種によって異なりますが、総資本回転率は、一般的に1.0~1.5が理想と言われています。総資本回転率、総資本回転期間は、売上高を向上させることで改善でき、総資本回転率に関しては、投入する資本を減少させることでも改善できます。

      ②棚卸資産回転率(%)=売上高÷平均棚卸資産 棚卸資産回転期間(日)=平均棚卸資産÷(売上高÷365)

      棚卸資産回転率とは、商品在庫をどの程度効率的に活用できているかを分析でき、適正な在庫を保つための重要な指標でもあります。また、棚卸資産回転期間は、仕入れた原材料や商品がどのくらいの期間で購入されたかを示す指標です。

      提供する商品や業種にもよりますが、棚卸資産回転率は10回転以上が理想的と言えます。棚卸資産回転率が悪くなる主要な要因は、不必要な在庫がストックされてしまっている場合です。売れていない商品の在庫を手放すことで改善することができます。

      棚卸資産回転期間の目安も業種によって異なりますが、食材などの廃棄までの時間が短い飲食サービス業は5日~10日、その他の業種では20日~40日ほどです。回転期間が長くなっている場合は、回転率と同様に不必要な在庫を減らすことで改善できます。

      ③売上債権回転率(回)=売上高÷平均売上債権 売上債権回転期間(日)=平均売上債権÷(売上高÷365)

      売上債権回転率とは、売掛金や受取手形などの売上債権が現金化されるまでのスピードを示す指標です。売上債権回転率は回数が多いほど、回収までのスピードが短くなります。また、売上債権回転期間は、売上債権が現金化されるまでの日数を確認することができます。

      売上債権が現金化されることで、新たな投資を増やすことができるため、売上債権回転率は割合が大きく、売上債権期間は短い方が理想的であると言えます。業種によっても異なりますが、売上債権回転率は、サービス業であれば20回ほど、それ以外の業種であれば6回転以上が理想です。売上回転期間はサービス業であれば6日~10日、その他の業種であれば30日~60日が標準です。

      売上債権回転率が低い、売上債権回転期間が長い場合には、回収の管理を行い、支払いが遅れている取引先に対して、支払いの催促などを行う必要があります。

      ④仕入債務回転率(回)=売上原価÷平均仕入債務 仕入債務回転期間(日)=平均仕入債務÷(売上原価÷365)

      仕入債務回転率および回転期間は、支払手形や買掛金などの支払いを、どの程度効率的に行っているかを示す指標です。仕入債務回転率を分析することによって、自社のキャッシュフローの効率性を、回転期間を分析することで、回収までの日数を確認することができ、経営状況の把握ができます。

      業種や業界によって異なりますが、適切な仕入債権回転率は、売上債権回転率よりも低いこと、仕入債権回転期間は、売上債権回転期間よりも長いことで、資金繰りの安定につながります。

  3. まとめ

    今回は経営分析の手法として、収益性分析、安全性分析、生産性分析、成長性分析、効率性分析をご紹介しました。会社の資産や負債、資本を効率的に活用できているかを分析することで、現状よりも効率的な資本の運用や課題点の発見につなげていきましょう。

  • ※ 本コラムは2022年12月16日現在の情報に基づいて執筆したものです。
  • ※ 本コラムの内容は執筆者個人の見解です。

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執筆者情報

株式会社SoLabo 代表取締役/ 税理士有資格者 田原 広一(たはら こういち) 監修

株式会社SoLabo 代表取締役/ 税理士有資格者
田原 広一(たはら こういち) 監修

現在までの融資実績は4500件以上
株式会社SoLaboにおいて、8期目まで3億円以上の融資を受ける
事業再構築助成金第4回~6回におけるサポート実績は、採択数日本一を誇る(2021年~2022年時点:SoLabo社調べ)

【書籍】
『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方35の秘訣』(幻冬舎)
『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)

【運営サイト】
創業融資ガイド » https://jfc-guide.com/
補助金ガイド » https://so-labo.co.jp/hojyokin/

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