経営改善に関するお役立ち情報
#3経営改善を行い安定した経営体質を目指す方法や対応の流れ
経営改善の手法は、業況や業種によってさまざまありますが、経営分析で自社の課題点を洗い出し、「戦略面」と「財務面」の2軸で改善していくという点は共通しています。
今回は、自社単体で経営改善を目指す際のポイントと、専門家と共に経営改善を目指す際のポイントを解説していきます。また、現在は国から補助金を受け、認定支援機関といった専門家と共に経営改善を行うこともできますので、国で支援している2つの事業についてもご紹介します。
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経営改善を行う前に経営分析を行う
経営改善を行うためには、まず経営において、どの部分に課題や問題があるのかを認識する必要があります。自社の課題を定量的・定性的に認識することによって、改善に向けた具体的な計画を立てやすくするためです。
自社で経営改善を行う際のポイントは、事業の「戦略面」と「財務面」です。戦略面では、内部環境や外部環境など相対的な指標を用いて自社の強みや弱みを分析し、財務面では、自社の財務分析など絶対的な指標を用いて現状の課題点を見つけ出します。
経営分析の結果と自社の目標を比較することで、現状の課題点を見つけることができます。掲げた目標よりも売上が上がっていないのであれば戦略面の改善を、売上が上がっているのにも関わらず利益が出ていないのであれば、財務面の改善を行っていきましょう。
なお、経営分析の手法は「経営分析とは~見るべき指標と計算方法を解説 ~」の記事で紹介しています。
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経営の戦略面から経営改善を図る
経営分析の結果、売上に課題があることが分かった場合は、まずは戦略面から経営改善を行いましょう。
経営における戦略とは、市場競争の中で、どのように計画や目標を立てて行動していくかを方向づけるものです。戦略面を分析することで、競合との関係性の把握や将来的なリスクを把握できます。さらに、客観的な立場から見た経営の改善点を見つけることができるため、自社の売上が上がっていない原因の発見につながります。
今回は、戦略策定において代表的なフレームワークである「SWOT分析」「4P分析」「AIDM(アイドマ)」を活用した改善方法をご紹介します。
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SWOT分析
SWOT分析は、内部環境である「強(Strength)」「弱(Weakness)」と、外部環境である「機(Opportunity)」「脅(Threat)」の4つの要素を分析し、経営やマーケティングに活かすためのフレームワークです。
内部環境 Strength(強み) Weakness(弱み) 目標達成のために活かせる自社の強み 目標達成のために克服すべき弱み 外部環境 Opportunity(機会) Threat(脅威) 目標達成のために活かせる市場機会 目標達成のために回避すべき脅威 SWOT分析では、上記4つの項目を分析できるだけでなく、それぞれを掛け合わせることによって、経営戦略の立案にも活用できます。
Strength(強み) Weakness(弱み) Opportunity(機会) 強み×機会=攻めの姿勢で競争力をさらに高める 弱み×機会=弱みを分析・克服して時流に乗る Threat(脅威) 強み×脅威=他社との差別化で生き残りを図る 弱み×脅威=最悪の事態を想定し回避に徹する SWOT分析の強みや機会は、自社の商品・サービスを展開する上で生かせるもの、弱みや脅威は克服すべきものとなります。強み・機会を生かし市場のシェアを獲得できる経営戦略を練り直し、弱みや脅威を克服していく行動を考えましょう。
(例)地方の宿泊施設のSWOT分析 Strength
(強み)地産地消・オリジナルの商品
古民家風の施設
SNSを利用した集客力Weakness
(弱み)回転率が悪い
一日の対応力に限界がある
アクセスが悪いOpportunity
(機会)情報発信が容易になった
ウィズコロナが広がった
近隣に競合が少ないThreat
(脅威)コロナが広がった
原材料が高騰している
少子高齢化が進んでいる- 【強み×機会】…新たな商品を生み出し、ネットを通じた販売をしていく
- 【強み×脅威】…土地を生かした自然を体験できるアクティビティを計画し差別化を図る
- 【弱み×機会】…アクセスが悪い点を逆手にとり、来た人にしか体験できない宿泊施設としての付加価値を高める情報発信を行う
- 【弱み×脅威】…地産地消で原材料高騰に対応し、SNS以外の情報発信で認知を高める
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4P分析
4P分析とは、マーケティングにおけるフレームワークの1つで、「商品・サービス(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「販促(Promotion)」の4つの頭文字をとったものです。自社における商品やサービスにおける分析を進めることで、「何を」「いくらで」「どこで」「どのように」販売促進するのかといった自社製品の優位性を明確化していきます。
- 【各項目の詳細】
- 商品・サービス(Product):どのような商品・サービスを提供するのか(品質やパッケージ、デザイン、コンセプトなど)
価格(Price):いくらで販売するのか(商品の価格)
流通(Place):どこで売るのか(ネットを通じて販売するのか、実店舗で販売するのか、どのような立地に出店するのか)
販促(Promotion):どのように知ってもらうのか(集客方法はどうするか、どの媒体を活用して認知拡大を行うのか)
4P分析を行うことによって、顧客のニーズに合った商品の立案が可能になります。SWOT分析などの環境分析とあわせて考えることで、商品・サービス価値を高めることができます。
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AIDMA(アイドマ)
AIDMA(アイドマ)は、消費者が商品・サービスを購入するまでの流れを示すものです。
注意(Attention)・興味(Interest)・欲求(Desire)・記憶(Memory)・行動(Action)の頭文字をとり「アイドマ」と呼ばれます。注意
(Attention)興味
(Interest)欲求
(Desire)記憶
(Memory)行動
(Action)消費者の状況 知らない 知っているが興味がない 興味はあるが欲しいとは思わない 欲求を忘れている 買うか迷っている・買う機会がない アプローチ 知名度の向上 商品の評価を高める 欲求を訴求する 思い出させる 購入機会を提供する 上記の5つの購入段階を経て消費者は、商品・サービスの購入に至るという考え方です。自社の商品・サービスにおける消費者の段階を見極めることによって、消費者に対するアプローチを変えることができ、効率的な顧客獲得ができるようになります。
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自社の財務状況から経営改善を図る
経営分析をした時に、売上に問題がないにもかかわらず経営状況が厳しい場合は、財務状況から経営改善を図りましょう。売上は立っているのに、経営難に陥っている場合は、財務状況に問題があり、余分な経費が経営を圧迫している可能性があります。
財務状況から経営改善を行うため、財務状況を構成する要素を「財務」「商流」「業務プロセス」の3つに分けて分析し、改善点を見つけていきます。
- 財務…同業種での比較を行い定量的に分析し改善につなげる
- 商流…商品やサービスの流れを把握し商流の最適化をは図る
- 業務プロセス…経費の削減や自社の強みや弱みを見つけ経営改善につなげる
上記の要素における課題を解決することで、経営に関する無駄な経費の削減につながっていきます。
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財務面から経営状況を把握する
経営分析をした時に、売上に問題がないにもかかわらず経営状況が厳しい場合は、財務状況から経営改善を図りましょう。売上は立っているのに、経営難に陥っている場合は、財務状況に問題があり、余分な経費が経営を圧迫している可能性があります。
財務状況から経営改善を行うため、財務状況を構成する要素を「財務」「商流」「業務プロセス」の3つに分けて分析し、改善点を見つけていきます。
- 財務…同業種での比較を行い定量的に分析し改善につなげる
- 商流…商品やサービスの流れを把握し商流の最適化をは図る
- 業務プロセス…経費の削減や自社の強みや弱みを見つけ経営改善につなげる
上記の要素における課題を解決することで、経営に関する無駄な経費の削減につながっていきます。
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財務面から経営状況を把握する
経営を財務から把握することによって、収益や経費を細分化して具体的な数値で分析できるため、定量的に経営状態を把握できます。売上や変動費、固定費のどの部分に問題があるのかを発見し、効率的な経営改善につなげましょう。
財務面から経営改善を行う際は、財務諸表から損益・経営管理指標から売上や経費の変動の確認、同業種との比較を行います。業種ごとの損益・経営管理指標は、日本政策金融公庫の業種別経営指標や中小企業庁の中小企業実態調査などで確認できます。
財務面の課題を見つけるには、利益構造を売上や原価、人件費、水道光熱費、通信費など各経費別に分けて分析を行います。特定の経費が同業種よりも多くかかっている項目はないか、経費と比較し十分な売上が上がっているか、売上が上がっていない場合は、どこに改善点があるのか等に着目し調査を進めます。同業種と比較し、経費が適正である場合は、売上を増やす必要があるため商流の改善を行い、経費の割合が高く経営を圧迫している場合には、経費を削減する必要があるため業務プロセスの改善を行っていきます。
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商流から改善を行う
商流を確認することで、仕入れ先から販売先までの商品やサービスの流れの中で課題点を確認できます。さらに、業種の特性を踏まえた客数や単価等の売上構成要素を把握することで、自社の特色や問題点が分かり、最適化を図ることができます。
商流は「取引先(仕入れ先、外注先、販売先など)」と「売上構成要素(店舗・営業所別、平均単価、人数、稼働率)」の2つに分けて見ていくと良いでしょう。
他企業との取引でより良い条件に改善するためには、自社の業界内での立ち位置や取引先の概要と取引状況、取引条件を把握し、取引先の経営課題に対して提案できるようにしましょう。客観的なデータを交渉材料にすることで、自社に有利な取引条件に持ち込めるようになります。
また、複数とお取引をすることで、取引先の経営状況の影響を受けやすくなりますが、売掛金の回収不能といったリスクを分散させられるメリットもあるため、取引先は分散させましょう。
次に、売上構成要素から売上の改善を目指します。売上構成要素は、業種によって性質が変わりますが、代表的なものは客数や客単価、購入頻度・来店頻度などです。
業種(例) 売上構成要素 小売業 新規顧客獲得数・既存顧客獲得数・客単価・商品単価・買上点数・客数等 宿泊業 販売総人数・提供客室数・客室稼働率・単価・宿泊料単価・付帯消費単価等 売上構成要素を上記のように分け、自社の商品やサービスの強み・弱みを考慮しながら改善点を探していきます。
例えば、自社の最も強みのあるサービスがウエディング用エステとすると、サービスは1回きりで終わってしまう可能性があります。そこで、継続的に新規顧客を獲得するための広告を打つ、また一度来店していただいた方に継続的な顧客になってもらうために、次回のクーポン券を配るなどの対策を講じることができます。
また、売上構成要素の数値を時系列で見ることによって、どの点に注力して改善すべきなのかが分かります。例えば、客数・購入頻度が下がっておらず、商品単価が下がっている時は、商品単価の向上を目指す等の対策ができます。
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業務プロセスから改善を行う
業務プロセスを確認することで、製品の製造や各工程の作業内容を把握でき、無駄なコストがかかっていないかを確認できます。業務プロセスは「自社の商品・サービス提供までの業務フロー」と「経費(変動費・固定費)」の2つに分けて見ていきます。
まず、自社の商品・サービスの企画から顧客に提供するまでの業務フローを確認します。
(例)旅館業の業務フロー
商品企画→集客営業→顧客の受入→サービス提供→顧客の出発→回収・与信管理自社の業務フローを洗い出した後、それぞれの工程における問題点や改善点がないかを調査します。あらかじめ準備ができる業務ができておらず、非効率的になっている部分はないか、必要以上の人件費を割いていないか、反対に人材が余っている時間帯はないかなどを確認していきます。業務フローを見直すことによって、人件費などの経費を削減することができます。
その他の経費削減を検討するために、変動費と固定費も確認しましょう。通信費や消耗品費などは、業務フローの改善だけでは対応できない部分です。不必要な経費を使用していないかを確認しましょう。
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専門家と経営改善計画書を策定し補助金を利用する
経営改善に取り組む場合は、国が指定した経営改善計画を策定することで補助金を活用することができます。活用できる事業は以下の2つです。
- 経営改善計画策定支援(405事業)
- 早期経営改善計画策定支援(ポストコロナ持続的発展計画事業)
これらの支援事業は新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢、原油価格の高騰を受け、売上の減少や借入金の増大に面している事業者を支援するためのものです。経営者と認定支援機関である税理士や公認会計士などが、共同して経営改善のための計画を策定し、改善のためのアクションを行っています。
いずれか2つの経営改善計画策定支援で経営改善に取り組む場合は、必要となる費用の3分の2が補助金によって支援されます。この事業では、認定支援機関からアドバイスがもらえるため、自社の経営戦略や財務状況などを専門的な視点をもとに分析でき、着実な経営改善を目指すことができます。
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経営改善計画策定支援(405事業)
経営改善計画策定支援は、金融支援を伴う本格的な経営改善が必要な中小企業・小規模事業者を支援するためのプログラムです。この金融支援とは、金利の減免や利息の支払猶予、借換融資、新規融資などです。
売上が減少している、借入金の返済が増大しているという中では、金融機関からの借り入れが難しい場合が多いです。しかし、経営改善計画策定支援は、認定経営革新等支援機関が経営改善計画の策定を支援し、経営改善の取組を促すものであるため、金融機関から「申請者に財務上の課題がある」「経営改善や事業再生に係る範囲での融資が必要である」と認められると、金利の減免や追加融資などの金融支援を受けられます。
「金融機関への返済が厳しい」「直近の借り入れが期待できない」といった業況が厳しい事業者でも活用でき、資金面での不安を減らすことができます。
金融機関から同意を得られた後は、認定経営革新等支援機関からのアドバイスをもとに作成した計画に沿って、経営改善に向けて資金繰りの安定化や売上の向上を目指していきます。黒字体質の経営に転換させたい、業績悪化の根本的な課題を把握したいといった目的のある事業者は、経営改善計画策定支援の利用を検討してみてください。
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早期経営改善計画策定支援(ポストコロナ持続的発展計画事業)
早期経営改善計画策定支援は、資金繰りの管理や経営状況の把握などに課題を抱えている中小企業や小規模事業者を支援するためのものです。早期経営改善計画は経営改善計画と異なり、金融支援が必須でなく、モニタリングも1年後に1回のみで良いため、経営改善計画策定支援と比較すると取り組みやすい内容となっています。
早期経営改善計画策定支援の中では金融支援を受けられませんが、金融機関への事前相談や計画提出を行う必要があるので、金融機関との接点づくり・関係性の構築が可能となり、将来の借り入れに向けたアピールになります。
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経営改善支援計画と早期経営改善支援計画の違い
経営改善支援計画と早期経営改善支援計画には、次のような違いがあります。
経営改善支援計画 早期経営改善支援計画 最大補助額 最大300万円(うち計画策定の上限額200万円、伴走支援の上限額100万円※事業規模による) 最大20万円(うち計画作榮の上限額15万円、伴走支援の上限額5万円) 金融支援 必須 必須ではない 経営改善計画の内容 ビジネスモデル俯瞰図
会社概要表
資金繰実績表
経営改善計画に関する具体的施策及び実施時期
実施計画(アクションプラン)及び伴走支援計画(モニタリング)計画
資産保全表などビジネスモデル俯瞰図
資金実績・計画表または資金予定表
計画損益計画書
アクションプランなどモニタリング 決められた月次時点でのモニタリングを3年間実施 早期経営改善計画策定後1年を経過した最初の決算時までの間に1度実施 経営改善支援計画は、3年間のモニタリングや作成する書類が多く手間がかかりますが、借り換え融資や金利の減免など金融支援を受けることができます。借入金の返済負担など財務上の問題を抱えており、抜本的な経営改善を行いたい場合は、経営改善計画を活用しましょう。
早期経営改善計画は、金融支援が必要なく、モニタリングも1年に1度で、経営改善支援計画と比較してハードルが低いのが特徴です。金融返済条件の変更等は必要がなく、資金繰りが不安で改善したいという人、経営状況を客観的に把握したい人に適しています。
経営改善計画策定支援および早期経営改善計画策定支援の活用を検討される方は、税理士やメイン金融機関などの専門家に相談してみましょう。
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まとめ
経営改善は1度行えば良いものではなく、続けていくことが重要です。
売上が上がらない場合は、戦略面をSWOT分析や4P分析を用いて分析し、自社の強み・弱みを理解したうえで、戦略を立てていきましょう。売上が上がっているにも関わらず経営が厳しい時は、経費がかかりすぎている可能性があります。財務面から分析し、経費の削減に努めましょう。
自社で行う経営改善のほかにも、認定支援機関などの専門家からアドバイスをもらいながら改善していく支援事業もあります。補助金が支給され、少ない負担で効率的に経営改善ができるので、活用してみるのも良いでしょう。
経営に問題がないかを常時確認し、対策を検討、効果的な経営のために改善するための行動を起こしていくことで安定した経営につなげていきましょう。
- ※ 本コラムは2023年1月6日現在の情報に基づいて執筆したものです。
- ※ 本コラムの内容は執筆者個人の見解です。
執筆者情報
株式会社SoLabo 代表取締役/ 税理士有資格者
田原 広一(たはら こういち) 監修
現在までの融資実績は4500件以上
株式会社SoLaboにおいて、8期目まで3億円以上の融資を受ける
事業再構築助成金第4回~6回におけるサポート実績は、採択数日本一を誇る(2021年~2022年時点:SoLabo社調べ)
【書籍】
『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方35の秘訣』(幻冬舎)
『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
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