起業に関するお役立ち情報
- ※ 本コラムの内容は執筆者個人の見解です。
#34会社設立後に役員報酬はいつから払う?報酬額の決め方や途中変更について
会社を設立する場合、いろいろと決めなければいけないことがあります。役員報酬の額もその1つです。しかし、初めて起業する人にとっては、どのように役員報酬を決めればいいか分からないでしょう。支払い開始時期が気になる人もいるかもしれません。そこで今回は、会社を設立する前に知っておきたい役員報酬に関する情報をまとめて紹介します。
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1.役員報酬とは?経理上の処理について
そもそも「役員」とは、会社法では取締役や監査役、会計参与に就く人のことを言います。法人税法では、会計法上の役員に加えて「みなし役員」も会社における役員と捉えます。みなし役員とは、使用人以外で会社の経営に関わっている人のことです。役員報酬について考えるときは、このみなし役員も役員として取り扱うことになります。役員報酬は経理上、「費用」として処理します。また、税務上、正当な役員報酬は「損金」として扱われると覚えておきましょう。
ただし、支払いのルールを守らなければ役員報酬のための支出であっても、損金としての取り扱いが認められないことがあります。損金として計上できなければ、会社は課税額が増えて損をするので注意が必要です。会社の経済的な負担を増やさないためにも、役員報酬の支払いをする前に基本的な規則をチェックしておくことが大切です。
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2.役員報酬の基本ルール
損金として取り扱いが認められている役員報酬には、次の3つがあります。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 利益連動給与
定期同額給与は毎月一定額の報酬を支払うもので、会社員が受け取る給与と似ています。所定の手続きをすれば定期同額給与の額を変更できますが、勝手には変えられません。事前確定届出給与は賞与のようなもので、期首から一定の期間内に税務署に届け出が必要です。利益連動給与は、上場会社等だけが取り扱える役員報酬で会社の利益に応じて金額が決定します。役員報酬の額を自由に変更することが許されると、会社の利益を操作できてしまいます。そのため、正当な理由がない状態で期中に役員報酬を変更すると、会社の損金として計上できなくなる規則が定められているのです。
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3.会社設立後最初の事業年度の役員報酬
それでは、会社を設立した年の役員報酬はどのように決めるべきか説明します。支払い方法も併せてチェックしていきましょう。
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3-1.設立から3カ月以内に決めること
役員報酬の額を変更できるのは、「事業年度開始の日から3カ月以内」というルールに則って、新たに会社を設立する場合の役員報酬は、設立日から3カ月以内に決めなければいけません。例えば、9月3日に会社を設立するなら、3カ月後の12月2日までに臨時株主総会を開催して役員報酬を決定する必要があります。この場合は、どれだけ遅くても12月分からは役員報酬を支払うことになります。会社の利益が安定しないことが予想されるなら、設立から2カ月間は役員報酬を支払わずに3カ月目から支払う方法も有効です。会社の経営状況や他の役員の意見などを踏まえて、自社にとって適切なタイミングで役員報酬の支払いを開始することが大切です。
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3-2.初めての支払いまでの処理
例えば、9月に設立した会社が臨時株主総会を12月に開いて役員報酬を決定したとします。この場合は、役員報酬を決定した12月から支払いを開始すれば良く、12月分から支払う場合、設立月である9月から11月までの役員報酬は、「0円」でも構いません。ちなみに、会社を設立してから3カ月以内に臨時株主総会を開いて「役員報酬は半年後から」と決議しても、損金として計上できないので注意が必要です。
また、役員報酬には、「日割り」という概念が存在しません。そのため、「役員報酬が決まった今月は、すでに前半が終わっているから報酬を半額にする」という扱いはできないことを頭に入れておきましょう。
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3-3.払わないことは可能?
会社を設立したてのころは、想定していたよりも利益が出ないことがあります。こうした場合に、「事業の利益が出ていないから、できれば役員報酬を払いたくない」と考える人もいるでしょう。結論から言えば、会社を設立して間もないころの役員報酬の一時的な未払いは見逃されるケースもあります。しかし、未払いのまま放置はできません。できるだけ早く利益を出して役員報酬の未払い状態を解消する必要があります。
なお、役員に対して支払っていない役員報酬は、「未払金」として経理処理を忘れずに行ってください。
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4.役員報酬の変更について
会社の経営を続けていくと、途中で最初に設定した役員報酬を変更したくなる場合があります。具体的にどのような手続きが必要になるのか押さえておきましょう。
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4-1.事業年度の途中で変更できる場合
所定の条件を満たす場合は、事業年度の途中であっても役員報酬の額を変更できます。例えば、取締役が代表取締役になったときなど、会社における職位が変わった場合は役員報酬の増減ができます。また、会社の経営状況が予想よりもひどく悪化した場合なども役員報酬の減額が可能です。役員報酬を減額するには満たすべき要件がありますので、税理士に相談するなどして慎重に決めましょう。
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4-2.変更の手続き
事業年度の途中で役員報酬を変更する場合は、臨時株主総会や取締役会を開いて決議をする必要があります。また、総会で話し合った内容を議事録として残さなければいけません。変更理由に妥当性がないと判断された場合、税務調査の際に追微課税の対象になる可能性があります。変更した役員報酬が損金として認められるように、議事録を忘れずに作成してしっかり保管しておいてください。
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5.役員報酬額はどう決めるのか
1人で会社を経営している場合などは、特に役員報酬の額について悩むことになるでしょう。役員報酬の額を決定するときは、最低でも「どこにお金を残したいのか」「社会保険料の金額はいくらになるか」の2点について考える必要があります。「どこにお金を残したいのか」については、会社か個人のいずれかを選択します。役員報酬を抑えて会社にお金を残せば、会社の利益が上がって安定した経営につながるでしょう。金融機関からの印象が良くなる傾向があるため、会社名義での融資を考えている場合はこの方法がいいでしょう。役員報酬を高くすれば、社長個人としての年収が上がります。
個人名義で住宅ローンや自動車ローンなどを組むことを検討しているなら、役員報酬を高めにした方が審査で有利になります。ただし、役員報酬が高ければ、その分、社会保険料の金額もアップすることを覚えておきましょう。こうしたことを踏まえて、法人と個人のどちらにお金を残すと節税につながるのか実際に計算して役員報酬を決めるといいでしょう。
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期中の役員報酬は固定!よく考えよう
役員報酬の額はコロコロ変更してはいけません。そのため、会社を設立するときに設定金額をよく考えることが大切です。期中にも役員報酬の変更はできますが、手続きが面倒なので気を付けましょう。初めて会社を設立するときは分からないことだらけで大変かもしれませんが、今回紹介した内容を参考に適切な役員報酬の額を考えてみてください。
- ※ 本コラムは2022年8月8日現在の情報に基づいて執筆したものです。
- ※ 本コラムの内容は執筆者個人の見解です。
- ※ 実際の会計処理につきましては、個別に会計士・税理士等にご確認ください。
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執筆者情報
V-Spirits グループ代表
税理士・社労士・行政書士・CFP®
中野 裕哲 監修
■起業コンサルタント®、税理士、特定社労士、行政書士、CFP®。V-Spiritsグループ代表(税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人・株式会社V-Spirits/V-Spirits会計コンシェル・給与コンシェル・FPマネーコンシェル・経営戦略研究所株式会社)。
年間約300件の起業相談を無料で受託し、起業家をまるごと支援。経済産業省後援 起業支援サイト「DREAM GATE」で11年連続相談数日本一。著書・監修書に『一日も早く起業したい人がやっておくべきこと・知っておくべきこと』(明日香出版社)、『ネコ先生がやさしく教える 起業のやり方』(アスカビジネス)など、16冊、累計20万部超。
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