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#22会社設立時の出費はどう仕訳する?資本金・創立費・開業費の考え方

法人の会計は、複式簿記による記帳が必要になります。しかし、簿記の知識があまりない人や設立時の仕訳に詳しくない人にとっては、どのように記帳すればいいか分からないでしょう。そこで、今回は複式簿記における資本金や創立費、開業費の考え方を紹介しながら、仕訳が必要になる具体的なケースを例に挙げ、仕訳のやり方を解説していきます。

  1. 1.複式簿記の基本をおさらい

    経理の経験や簿記の知識がない人にとって、複式簿記の考え方はなかなか理解しにくいかもしれません。起業したばかりで、自分で法人の仕訳業務を行う場合は、分からないことも多く大変です。そのため、会社の取引に関する記帳をする場合は、複式簿記に必要な知識をある程度押さえてから取り掛かるのがよいでしょう。しかし、「なかなかそんな時間は取れない」という人は、まず基本的なポイントから順番に理解していくことが大切です。そもそも、複式簿記の目的は、財務諸表を作成することにあります。財務諸表とは、会社の経営状況を利害関係者に報告するために必要な資料のことです。

    中小企業にとって、財務諸表を作るには、「貸借対照表」「損益計算書」「株式資本等変動計算書」の3つを作成しなければいけないので手間がかかります。しかし、会社の経営状態を客観的にチェックするためには、財務諸表は欠かせません。そのため、会社設立後は、忙しくても時間を取って日々の取引を仕訳として記帳し、財務諸表を作るのに必要な準備を少しずつ進めていくことが大切です。

    複式簿記で必ず行う作業が仕訳です。仕訳とは、会社を運営するためにかかった経費などを簿記のルールに従って記帳すること。簿記のルールでは、すべての取引を「資産」「負債」「純資産」「費用」「収益」の5要素で表します。例えば、資産の増加は借方、負債の増加は貸方に記帳します。また、簿記の5要素は、それぞれに勘定科目と呼ばれる項目に細分化されています。

    「資本金などの創業期にかかるお金はどう考えるべきか」と疑問に思う人もいるでしょう。結論からいえば、定款に記載した資本金は「資本金勘定」を使用します。また会社設立以前にかかったお金は経費として計上するほか、「繰延資産」として「創立費勘定」、設立後にかかったお金は「開業費勘定」として記帳することも認められます。

  2. 2.「創立費」とはどんなお金?

    創立費とは、会社を設立するための準備から実際に設立するまでにかかったお金のことです。例えば、以下のようなものを創立費として仕訳します。

    • 設立登記を司法書士などの専門家に依頼した場合にかかる報酬費用
    • 定款の作成費用
    • 設立登記の登録免許税
    • 会社設立までの事務所の貸借料など

    このほかにも、会社を設立するために開いたミーティングの飲食代なども創立費です。ただし、いずれも仕訳を切るためには領収書などの証憑が必要になります。会社を創立する前から領収書を保管することが大切です。

  3. 3.「開業費」とはどんなお金?

    開業費は、会社を無事に設立してから営業を開始するまでにかかったお金のことです。もう少し詳しく説明すると、開業の準備のために「特別に支出した費用」が開業費になります。開業費として仕訳できる費用の例としては、交際費、広告宣伝費、市場調査費用などです。このほか、スムーズに会社を営業するために実施した研修の費用なども開業費になります。ただし、設立後から営業開始までにかかった費用なら何でも開業費になるわけではありません。例えば、パソコンなどの購入価格が10万円以上の備品は、開業費ではなく固定資産になります。固定資産は、規定に基づいて減価償却する必要があるので十分注意しましょう。

  4. 4.創立費・開業費は費用ではない!

    創立費や開業費は、複式簿記において費用ではなく「繰延資産」です。勘違いしやすい勘定科目なので注意しましょう。繰延資産に分類されるのは、支出効果が1年以上に及ぶ資産のことで、創立費や開業費は、費用ではなくこの繰延資産として勘定科目に分類されます。また、繰延資産は、会計上以下のように償却します。
    創立費…会社の成立のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却
    開業費…支出のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却

  5. 5.「経常的な経費」と「特別に支出した費用」

    開業費の記帳をするときに、「経常的な経費」に該当する支出は、開業費にならないことに注意しましょう。開業費として記帳できる支出は、開業するための準備で「特別に支出した費用」だけです。例えば、名刺・会社の印鑑の作成費用、開業の必要な打ち合わせ時にかかった飲食代などの接待交際費であれば、開業費として仕訳ができます。しかし、通信費や水道光熱費、消耗品費、事業員の給料などは、「特別に支出した費用」ではなく「経常的な経費」になるので、開業費として仕訳できません。

    こうした支出は、初年度に会社でかかった費用として別の勘定科目で計上する必要があります。例えば、固定電話の通話代は通信費、事務に必要な文房具は消耗品費として仕訳するといいでしょう。

  6. 6.資本金の仕訳はどうする?

    「資本金は創立費」と勘違いする人もいますが、資本金は「資本金」という勘定科目で記帳します。発起人の個人口座に振り込まれた資本金は、会社名義の銀行口座を開設できたらすぐに移すことが必要です。この預け換えの仕訳は、借方が「普通預金(会社口座がなければ別段預金)」、貸方は「資本金」となります。

  7. 7.以下の時はどう仕訳する?

    会社設立時に悩みがちな仕訳を2つ紹介します。具体的なケース別に紹介するので、自社で必要な仕訳がないか確認してみましょう。

    1. 7-1.資本金から経費を払っていた時

      会社を設立するときは、資本金を発起人が持つ個人口座に預け入れることが必要です。通常は、会社名義の口座を開設したタイミングで、個人口座にある預け金(資本金)を法人口座に移動させます。しかし、銀行口座の開設が遅かったなどの理由で、移動前に資本金から経費を払っていた場合もあるでしょう。この場合の仕訳は、貸方は「預け金」ですが、借方は支出した費用の内容によって異なります。具体的には、会社の登記に関する費用だと「創立費」、営業開始の準備に関する費用開業費であれば「開業費」です。例えば、資本金から登録免許税を払えば創立費になり、名刺の作成費用を支払った場合は開業費として仕訳をします。

    2. 7-2.個人が経費を立て替えた時

      会社として活動していくと、個人が会社の代わりに経費を立て替えるケースもめずらしくありません。例えば、交通費を社長個人が立て替えることもあるでしょう。この場合の記帳は、借方に「旅費交通費」、貸方に「未払金」で仕訳をします。社長個人に対して会社の立替分のお金から戻したときの仕訳は、借方「未払金」で貸方「普通預金」です。

  8. 考え方を知れば仕訳は難しくありません。

    会社設立に関する仕訳は、普段の営業であまり使用しない勘定科目が使われるため難しい印象を持つ人もいるでしょう。しかし、会社設立時に使う勘定科目ごとの考えた方を理解すると、仕訳がしやすくなります。今回紹介した内容を参考に、会社設立時に必要になる仕訳を実際に行ってみましょう。会社を創立するタイミングで、資本金・創立費・開業費のポイントを押さえておけばお金に対する考え方が変わるでしょう。

  • ※ 本コラムは2022年5月16日現在の情報に基づいて執筆したものです。
  • ※ 本コラムの内容は執筆者個人の見解です。
  • ※ 実際の会計処理につきましては、個別に会計士・税理士等にご確認ください。

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執筆者情報

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V-Spirits グループ代表
税理士・社労士・行政書士・CFP®
中野 裕哲 監修

■起業コンサルタント®、税理士、特定社労士、行政書士、CFP®。V-Spiritsグループ代表(税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人・株式会社V-Spirits/V-Spirits会計コンシェル・給与コンシェル・FPマネーコンシェル・経営戦略研究所株式会社)。
年間約300件の起業相談を無料で受託し、起業家をまるごと支援。経済産業省後援 起業支援サイト「DREAM GATE」で11年連続相談数日本一。著書・監修書に『一日も早く起業したい人がやっておくべきこと・知っておくべきこと』(明日香出版社)、『ネコ先生がやさしく教える 起業のやり方』(アスカビジネス)など、16冊、累計20万部超。

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