会社を設立した場合、税務署に消費税を支払う必要がありますが、所定の条件を満たせば消費税が免税されるのをご存じですか。少し工夫するだけで、消費税の免税期間を長くできます。そこで今回は、具体的にどうすれば消費税が免税されるのかを解説していきます。免税期間を長くするためのコツもあわせてチェックしましょう。
目次
1.税務署に支払わなければならない消費税とは
消費税の免税について説明する前に、まずは消費税の基本的な仕組みを押さえておきましょう。消費税は、事業者が資産の譲渡やサービスの提供をした場合の対価などに課税される税金です。この消費税の支払いを負担するのは、事業者から商品やサービスを購入する消費者になります。しかし、消費税を国に納めるのは、商品やサービスを提供した事業者です。つまり、事業者は消費者が支払った消費税をまとめて納税する役割を担っています。これは、ほかの税金にはない消費税ならではの特長です。
ただし、事業者は消費者が支払った消費税を全額、国に納めることは基本的にはありません。なぜなら、事業者も消費者に販売するサービスや商品を作り、販売・提供するために原材料などを購入しています。そのため、事業者は原材料などの購入時に支払った消費税を、自社が消費税を納めるタイミングで差し引くことになり、事業者が国に納付する消費税の金額は「自社が消費者から預かった消費税-自社が預けた消費税」(仕入税額控除)となります。なお、事業者は決算が終わってから2カ月の間に消費税を納税しなければいけませんので、納付時期に注意する必要があります。
2.消費税免税の条件
消費税の課税対象となる事業者を「課税事業者」といい、課税対象とならない事業者を「免税事業者」といいます。
原則として事業者には消費税の納税義務がありますが、例外的に基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1千万円以下の事業者は納税義務が免除されています。
ただし、2023年10月から導入されたインボイス制度の導入の影響によって大きく異なりますので注意が必要です。
2-1.1期目
新規に開業したばかりの法人には、課税対象かを判断する課税期間の基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の売上高がありません。そのため、会社を設立した年(1期目)は、基本的に消費税が免税されます。ただし、資本金が1千万円未満でなければ、免税事業者にはならないので注意してください。この場合の資本金は「資本金だけ」の金額を指します。資本準備金は含まれないのがポイントです。よって、1期目に消費税の免税事業者の条件を満たすには、資本金の金額や取り扱いに気をつけることが大切です。例えば、会社設立にあたって準備したお金が1千3百万円あったとしたら、資本金を9百9十万円にして、残りを役員から会社への貸付金に計上することで、消費税を免税することができます。また、株式会社では出資金の2分の1以下を資本金ではなく、資本準備金という科目で計上することもできます。この資本準備金を活用すれば、例えば1千9百万円を出資する場合でも、資本金を9百5十万円、資本準備金を9百5十万円にして消費税を免税することもできます。
2-2.2期目
1期目に引き続き、2期目も消費税の免税事業者になるためには条件が増えます。平成23年に消費税法が改正されて厳しくなっているので、きちんと条件を確認しましょう。2期目も消費税が免税されるための条件は、全部で3つあります。1つ目の条件をクリアしていれば、2つ目か3つ目の条件のどちらかを満たすだけで消費税の免税事業者になります。1つ目の条件は、1期目のときと同様です。これは消費税の免税事業者になる必須条件になので、資本金の金額はよく考えて設定しましょう。2つ目の条件は、会社の事業を開始した年度の前半6カ月間で売上高が1千万円を超えていないことです。このときの売上高は、消費税の課税対象となるものに限定されます。
3つ目の条件は、会社の事業を開始した年度の前半6カ月間で支払った給与等の合計が1千万円以下であることです。この場合の「給与等」には、未払いの給与等は含まれないので覚えておきましょう。したがって、会社を設立してから2期目に消費税の免税事業者になるためには、1つ目の必須条件と2つ目の条件を満たすことが大切です。もし、設立した会社の売上が前半6カ月間で1千万円を超えた場合は、3つ目の条件をクリアできるように調整するといいでしょう。具体的な方法は、後ほど詳しく解説するので合わせてチェックしてください。
2-3.3期目以降
3期目以降に消費税が免税されるかどうかは、基準期間である2年前の課税売上高の金額を元に決まります。具体的には、基準期間の課税売上高が1千万円を超えると消費者が支払った消費税を納税する必要があります。そのため、1期目や2期目と違って、3期目以降に事業者自身で消費税の免税条件を満たすのは難しいと言えるでしょう。
2-4.インボイス制度の導入後の課税事業者ならびに免税事業者への影響
2023年10月1日からインボイス制度が導入され、仕入税額控除(消費税の免税)を受けるには適格請求書(インボイス)の交付・保存が必要となりました。
なお、適格請求書(インボイス)を発行できるのは消費税の課税事業者かつ、適格請求書発行事業者の登録申請を行った事業者のみであり、免税事業者は適格請求書を発行できません。
課税事業者にとって、取引先が免税事業者だと適格請求書(インボイス)が発行されないため、その取引における消費税相当額は仕入税額控除の対象外となり、その分税負担が大きくなります。
それが理由となり免税事業者との取引が打ち切られたり、新規の取引が難しかったりする可能性があります。
2-5.インボイス制度導入に伴う負担軽減策
インボイス制度導入後の事業者負担を懸念し、一定期間の経過措置や負担軽減措置が設けられています。
課税事業者は免税事業者と取引のある場合の負担を考慮し、適格請求書発行事業者以外からの請求書でも、2029年9月30日までは一定割合の仕入税額控除を受けられます。
また、免税事業者がインボイス制度を機に課税事業者かつ適格請求書発行事業者となった場合、2026年9月30日までの各課税期間においては、消費税の納付税額を売上税額の2割とすることができます。(2割特例)
3.消費税の免税期間を長くするコツ
できるだけ消費税の免税期間を長くするためには3つのコツがあります。1つ目は、決算月を会社設立の前月にする方法です。たとえば、決算月を12月にしたい場合は、会社を翌年の1月に設立します。こうすることで、単純に期の日数が多くなるので免税期間を長くできます。なお、設立時に決めた決算月は株主総会で変更できるので、必要に応じて変更を検討してください。
2つ目は、給与の支払いを月末締めの翌月払いにする方法です。消費税の免税事業者になる条件の1つに給与等の支払額があります。このときの支払額は、実際に従業員等に支払った金額で計算されます。そのため、給与の支払いを月末締めの翌月払いにすれば、給与支払額を1カ月分計算しなくて済むのです。上半期の給与等を下半期で払っても問題ないなら、下半期に回せば消費税の免税期間を長くできます。3つ目は、業務委託を活用する方法です。社員を雇わずに外部に仕事を依頼すれば、給与ではなく外注費が発生します。こうすることで給与支払額を抑えられるので、免税事業者になる条件を満たせます。
4.消費税の還付
最初の段落で紹介した事業者が支払わなければならない消費税は、これから解説する還付に関係します。事業者は、消費者に商品やサービスを販売して受け取った消費税よりも、自社が支払った消費税の方が多い場合は、その差額を還付してもらえます。免税事業者は消費税を申告する義務がありませんが、もし消費税の還付を受けられる可能性がある場合でも消費税の申告をして還付を受けるということができません。そのため、免税事業者になるだけでなく、あえて免税の要件を満たす場合でも、課税事業者の選択をして消費税の申告をすることで、消費税の還付を受ける方法も有効です。なお、消費税の納税額を計算する方法には、原則課税と簡易課税の2つがあります。計算が簡単なのは簡易課税ですが、消費税の還付を受けられるのは原則課税を適用した場合に限定されます。
どちらの課税方式を選択すれば事業者にとってお得になるかは、会社の特色や仕入割合などに左右されるので一概には言えません。しかし、消費税が還付される場合に簡易課税を適用していると損をするので、課税方式の選択はよく考える必要があります。
なお、前述したインボイス制度の経過措置として設けられた2割特例を適用している事業者は消費税の還付は受けられません。
5.会社設立に関する税金
会社を設立するときに特に重要な税金は、法人税、法人住民税、法人事業税の3つです。法人税は、会社が期中に得た利益対して課税される税金です。利益から損失を差し引いて法人所得を算出し、その金額に所定の法人税率を掛けて計算します。法人住民税は地方税に分類される税金で、所得割と均等割の2種類に分けられます。所得割は、会社が得た利益に対して税金が課税されますが、均等割は会社の所得に関係なく発生する仕組みです。そのため、会社が赤字であっても法人住民税は0円にならないので注意しましょう。
法人事業税は、会社の所得金額に対して税金が課税されます。計算方法は、所得に法人事業税率を掛けて求めますが、法人事業税率は都道府県ごとに異なっています。法人事業税率は各都道府県のWebサイトや役所の窓口などで誰でも簡単に確認できるので、気になる人はチェックしてみましょう。
まとめ
インボイス制度導入によって課税事業者と免税事業者にはそれぞれ異なる影響があります。
免税事業者のままでいる場合は消費税の納税義務はありませんが、取引先が課税事業者であればその後の取引への影響があるかもしれません。
一方で課税事業者になる場合は取引への影響はなくなりますが、消費税の納税義務が発生し、経理や事務作業の負担増大などの影響があります。
どちらが良いのかは一概に言えませんので迷ったら専門家に相談してみてもいいでしょう。
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※ 本コラムは2022年7月26日の情報に基づいて執筆したものです。
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